『男って』



痴呆症のおじいさんが
昼、夜関係なく
「おかあさん」と叫ぶ

待ちに待った面会時間
おかあさんこと
“奥さん”が来た
その時、奥さんの体の調子が悪かった
それを悟ったおじいさんは
「お前なんか嫌いじゃ。帰れ」と叫んだ

奥さんが帰って三分もたっていないのに
おじいさんが
「おかあさん」と叫ぶ・・・
私は思わず心の中で
「今、帰れ言うたやろ」と
突っ込んでしまう

男っていつまでたっても
素直になれない動物なんだな


「エッセイ」

父が脳梗塞で倒れた時、私の世話をしてくれていた母が看病にあたることになり、
私を世話してくれる人がいなくなってしまいました。
現在、短期間なら預かってくれる福祉施設はあるんですが、
これが長期になると、ないに等しい。私の場合、
以前に入院していた病院のケースワーカーに相談したところ、
「病院は治療するところだから、清水君を入院させるわけにはいかない」と言われ、
市もほかの病院も、いざという時には力を貸してくれず・・・。
結局、自分のつてで、無理のきく個人病院に頼みました。
それでも、最初から3ヶ月という約束をした上での入院でした。
現場で働いている方ならわかると思うのですが、3ヶ月を過ぎると保険点数が下がり、
病院が儲からないのです。それが過ぎるとどうなるかというと、違う病院に回されます。
上の詩は、そんな3つ目の病院で書いたものです。
おじいちゃんは痴呆症で、朝でも夜中でも関係なくわめきます。
口癖は「おかあちゃん」です。
私は、そのおじいちゃんはぼけてしまって、何もわからないのだと思っていました。
その日も、奥さんが遅れてくるなり「バカ、帰れ」と言ったので、
私はそれをいつもの口癖の1つだと思っていました。
あとでわかったことですが、奥さんが遅れてきたのは、身体の調子が悪く、
外来で診察を受けていたからでした。
もしかするとおじいちゃんは、長年連れ添った夫婦にしかわからない“何か”を悟って、
本当は帰って欲しくなかったのに、奥さんの体を気づかって「帰れ」と言ったのかもしれません。
普通なら、「俺のことはいいから、早く帰って休め」になるのでしょうが、
男は、時には自分の意志とは逆の表現を使うこともあります。
いくつになろうが素直になれない。どういう状況になったとしても、
“心”だけは変わらないんだなと思いました。